合 流




 太平洋上、エリア11に向かう浮遊感の中で、エリア11の新総督としてそこに向かう途中であるナナリー・ヴィ・ブリタニアは、黒の騎士団の奇襲を受け、ゼロと対峙していた。
 ナナリーはゼロが何者であるか知っている。いや、分かっているといった方が正しいだろうか。当のゼロは、ナナリーが己の正体を知っていることに気付いていないようであるが。
 ゼロはナナリーの兄、ルルーシュだ。目は見えていないが、対面して確信した。今まで直接ゼロと対峙したことはなかったから、見当をつけてはいたものの、確信にまでは至っていなかった。だが今、直接対峙して漸く確信を持てた。ゼロは兄だ、誰よりも愛するルルーシュ本人に他ならない。ならばゼロは自分を傷つけたりはしない。
 スザクの乗ったランスロットの介入により、二人の遣り取りは表面的なものだけで終わってしまい、何ら核心に触れることは出来なかったが、ナナリーにとってはゼロが兄のルルーシュであると確信を持つことが出来ただけでも、何よりも収穫のあるものとなっていた。



 エリア11に到着したナナリーは、総督としての着任の就任演説の中で、以前、ブリタニアの第3皇女であり、異母姉(あね)の“慈愛の姫”と呼ばれたユーフェミア・リ・ブリタニアによって提唱されながら、彼女自身の突然の乱心の元に失敗に終わった“行政特区日本”を、自分が改めて再建すること、そしてそれに対して、ゼロと黒の騎士団に参加と協力を要請した。
 今はナンバーズ── イレブン── と呼ばれる日本人たちが、かつての、僅か一年前のことを思えば、同様の特区に参加しようなどと思うはずはない。しかしゼロが、黒の騎士団が全面的に協力してくれるなら、状況は変わるとナナリーは判断した。そしてゼロである兄は、自分に反対するようなことはないだろうと、あまりにも短絡的にそう考えていた。
 ブリタニアの国是は弱肉強食、力が全てだ。今、ナナリーの隣にいるスザクは、ゼロであるナナリーの最愛の兄ルルーシュを、彼が誰よりも憎む父である皇帝に売ってラウンズという地位を得た。そのような男をナナリーが果たして心の底から信用しているといえるだろうか。否だ。優しい方法で国を変えていける、と同調してはいるが、そう言いながら、白き死神などという二つ名を取る程に敵国の兵士たちを殺し尽くしているスザクに、彼が簡単に口にする優しい方法など取れようはずがない。そんなことをすれば言動不一致の謗りは免れないし、皇帝直属の騎士たるラウンズとしてもあるまじきこととなる。
 それに加えて、皇帝にも言われたことだが、スザクもナナリーがアッシュフォード学園に近付くことを禁じている。曰く、もう立場が違うのだからと。
 しかしアッシュフォード学園は何年もの間滞在した場所であり、その学園を創設したアッシュフォード家はかつてのヴィ家の後見であり、その当主たるルーベンが、ナナリーたち兄妹がいた間の後見、保護者だった。そして何人もの親しい友人たち、仲間たちがいる。
 それなのにそのアッシュフォード学園にナナリーが近付くことを禁止するということは、単に立場が異なるからだけではなく、ナナリーから隠さなければならないモノがそこに在るからだということになる。そしてそれはルルーシュのことに他ならないだろう。ナナリーに対しては、ルルーシュは未だ行方不明ということになっているのだから。
 ナナリーは、決してそれだけではないが、目的の一つは確かに兄であるルルーシュを捜すために総督となってエリア11に来ることを望んだ。全ては兄と共にいるためだ。そのためなら何でもしようとナナリーは考えている。たとえそれが本国ブリタニアに、父である皇帝に逆らうことになってもだ。ナナリーにとって何よりも大切なのは、最愛の兄であるルルーシュ以外にないのだから。
 そして総督補佐の地位にあるスザクは、ナナリーがそんな考えでいることに、彼女の自分に対する感情に、少しも気付いていない。



 そうして“行政特区日本”の開設式典の日、ゼロはスクリーン越しに現れた。
 ゼロは特区に参加はしないという。そして己は国外追放の処分を受けると。
 何故? とナナリーは思った。兄は、ゼロであるルルーシュは何を考えているのかと。分からぬまま、ナナリーはゼロの出方を伺った。変に今自分から行動するより、ゼロの動きを見て行動を決めた方が良いと判断したためだ。
 やがて会場にいた日本人全てがゼロとなった。
 ああ、これが兄の考えだったのか。兄は自分のためにエリア11を、日本を去ることを決めたのだとナナリーは察した。だがそれでは兄と共にあることが出来ない。ならば──
「待ってください、ゼロ」
 ナナリーは船に乗り込むゼロたちを見えぬ目で追いながら声を発した。
「私も参ります」
 その発言に、周囲にいた者たちが一瞬固まった。総督は何を言っているのかと。
「ナナリー、君は何を言っているか分かっているのか?」
 そんな中で一番最初に我に返ったスザクがナナリーに問い掛ける。
「ブリタニアは力が全ての国。そんなブリタニアを変えようと思ったら、決して正しいとは言い切れませんが、現実問題としてはやはり力で対抗するしかないのでしょう。そして私は今のブリタニアを肯定出来ません、正しいとは思えません。そんなブリタニアに抵抗するゼロと、彼の率いる黒の騎士団と共闘することに何の問題があるでしょう。
 ゼロ、私を黒の騎士団に入れてください。ブリタニアの第6皇女、エリア11の総督ナナリー・ヴィ・ブリタニアではなく、ただのナナリーという名の一人の娘として、目と足が不自由な身ではありますが、貴方の仲間に入れてください」
 そう声に出しながらナナリーは思った。お兄さま、ナナリーを貴方の傍にいさせてくださいと。
「ナナリー!」
 スザクがナナリーを咎める声を発する。
「ゼロを皇帝に売ってその褒賞としてラウンズの地位を得たスザクさん。貴方は貴方の信じる道を行きなさい。でも私の道は貴方とは違います。私の道はゼロと共にあるのです」
 ラウンズであるスザクを否定し、ゼロを肯定する総督の声に、会場中のゼロたちがざわめきだす。
「それ程までに私と共にあることを、共にブリタニアと戦うことを望みますか、ナナリー総督?」
 ゼロの声が会場の中に響き渡る。
「はい、私は貴方と共に」
 ナナリーはそう声にし、お兄さまと共に、と心の中で同様に告げる。
 騎士団のKMFが1機、ナナリー目がけて飛んでくる。
 スザクは慌ててランスロットを起動させようとランスロットに向かうが、しかしスザクのランスロットよりも早く、騎士団のKMFはその手にナナリーを車椅子ごと乗せると、逸早くその場を去った。それが無用の混乱、戦闘を避けるために一番よかったからだ。
 そうしてナナリーはゼロの元に、一年振りに兄ルルーシュの元に戻った。
 ナナリーは思う。これから先何が起ころうと、絶対に自分は兄ルルーシュと共にあると。

── The End




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