土の味




 超合集国連合のエリア11に対する侵攻作戦開始とほぼ時を同じくして、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアは、己の副官であるカノン・マルディーニに、ナイト・オブ・セブン、すなわち枢木スザクを追うように命じた。
 枢木スザクという存在は複雑であり謎がある。
 何をして彼をナイト・オブ・ラウンズ、帝国の最強騎士に取り立てさせたのか。それはブラック・リベリオンにおいてのゼロ捕縛の功績あってのこととなっているが、肝心のゼロは今現在、復活し、超合集国連合の下部組織となった黒の騎士団のCEOとして存在している。
 枢木スザクの先にはゼロの存在があるとシュナイゼルは考えた。
 そしてまた、スザクに関して調査しているうちに明らかになった、一年前、スザクが学生として通っていたアッシュフォード学園の生徒会副会長ルルーシュ・ランペルージという名の友人の存在。
 手に入れたルルーシュ・ランペルージには強い面影があった。それはシュナイゼルが誰よりも愛しく想っている異母弟(おとうと)であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである。
 八年前、皇帝である父シャルルの第5皇妃マリアンヌの死に伴い、弱者として切り捨てられ、身体障害者となった妹と二人、既に緊張関係にあった日本に送られ、ブリタニアの日本への侵攻と同時に死んだとされた存在。
 しかしシュナイゼルはその死を受け入れてはいなかった。確かにまだ僅かに10歳という年齢ではあったが、体力的にはいささか平均を下回ってはいたものの、聡明さにおいては同年齢の者たちを遥かに凌駕していたルルーシュが、そう簡単に殺されたりするはずがないと。寧ろ弱者としてしか扱われないであろう皇室から、ブリタニアという国から逃げているのではないかと考えた。そして同時に、きっとルルーシュは己を捨てた父を、異母兄弟姉妹を、ブリタニアという母国を恨んでいるだろうと。
 スザクは日本に送られた当時のルルーシュが預けられていた先の、当時の日本の首相であった枢木ゲンブの息子。たった一度だけあった手紙で知らせてきた、友人。
 それらの事を繋ぎ合わせれば、おのずとルルーシュ・ランペルージが異母弟のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであろうことは極自然なことに見えてくる。
 スザクとルルーシュの関係、スザクとゼロの関係、それらを重ね合わせて考えて出した結論が、ゼロは実は異母弟のルルーシュなのではないかということだった。
 故にシュナイゼルは、今でもなお、誰よりも愛しいと思っているルルーシュを己の手に取り戻すべく、カノンに命じたのである。
 そしてシュナイゼルの考えは正鵠を得ていた。
 ゼロはルルーシュだった。
 ルルーシュが捕えられた軍用車両の中、シュナイゼルはルルーシュと話すべく回線を繋いだ。
 モニター越しに見る異母弟は、以前入手した写真の中の彼同様、美しく成長していた。しかし同時にその瞳は憎々しげにシュナイゼルを見つめ返していた。
「悲しいね。皇族殺しのゼロ── その正体が我が異母弟とは」
 シュナイゼルは悲しげな表情を見せた。
「残念な再会になってしまったけれども、ルルーシュ、皇帝陛下には私から取り成そう。もちろんお咎めなしとはいかないだろうけれど、命だけは救ってやれるかもしれない」
『俺を憐れむつもりですか、異母兄上(あにうえ)
「ルルーシュ、私は今でも君の異母兄(あに)のつもりだよ。悪い様にはしない。私を信じて……」
 言い掛けて、今気が付いたかのようにシュナイゼルは言葉を止めた。
「ルルーシュ、その傷は……?」
『傷?』
 眉を顰めて心配そうに尋ねてくるシュナイゼルの変わりように不思議に思いながらもルルーシュは一言問い返した?
「頬が赤く傷ついている」
『あ、これは』答えながらルルーシュは確かに未だ痛みの残る頬に手を当てた。『さっきスザクに……』
「スザク? 枢木が君を傷つけたというのか! それもよりにもよってその美しい(かんばせ)を!」
 シュナイゼルは思わず拳を握り占めていた。
『あ、異母兄上……?』
 常に冷静沈着、そして優しげな態度しか表に出さないシュナイゼルが、今明らかに怒りをその表情に表している。
「許すまじ、枢木!」
『異母兄上、何を……?』
 シュナイゼルの様子の変化に疑問を、不可思議さを覚えながらも、その一方でルルーシュはこの場から逃れるべく思案を重ねていた。
 そしてルルーシュは思い出していた。自分をこの車両に押し入れたのが、以前にギアスを掛けておいたコーネリアの騎士ギルフォードであったことを。現在のシュナイゼルとの遣り取りがギルフォードにも届いていることを願いながら、ルルーシュはギルフォードに自分をコーネリアと思わせる合図を送った。
 ルルーシュの思惑通り、それを見ていたギルフォードは、ルルーシュをコーネリアと思い込み、ルルーシュを、否、彼にとってはコーネリアを救い出すべく行動に出た。
 突然のギルフォードの変容にグラストンナイツは対応しきれず、ルルーシュはギルフォードの騎乗するKMFによって、軍用車両から救い出され、その場を飛び去った。



 カノンたちと共にトウキョウ租界に戻ったスザクは、政庁の一室でシュナイゼルと対面していた。
「君はゼロが何者なのか知っていたのだね」
「……」
「ゼロはルルーシュだった。それを知っていながら彼の妹であるナナリーにそれを隠していた。つまり騙していた。それはナナリーに対してだけではない、私をはじめとした皆に対してだ」
 スザクに言わせればそれを自分に行わせたのは他ならぬ皇帝シャルルであり、自分には何も、とまでは言わないが責任の一切があるように責められるのはお門違いだと言いたかったが、流石に帝国宰相であるシュナイゼルを前にしてそれを口にすることは出来なかった。
「君が、せめて私にだけでもこの事実を告げてくれていれば、この不幸な戦いは起こらずに済んだかもしれないものを」
 悲痛に顔を歪ませてシュナイゼルはスザクに告げる。
 シュナイゼルにしてみれば、事の最初から分かっていれば、ルルーシュをゼロとしてではなく、異母弟のルルーシュとして保護し、自分の傍に置けたものを、との思いがある。そうすればルルーシュは友人の裏切りにあって売られることも、彼にとっては何よりも大切な妹と引き離されることもなかったものをと。
 シュナイゼルはこの枢木スザクというナンバーズ上がりの名誉に過ぎない男は、純朴そうに見えて、その実、友人を友人と思わず平気で裏切り、皇族を皇族として敬うことも出来ない、己の立身出世しか頭に無い男なのだとの思いを強めた。
 スザクがルルーシュを真実友人と思っているのなら、ルルーシュを裏切ったり売ったりはしなかっただろうし、皇族を皇族として認識しているのなら、騎士でありながら、主であるユーフェミアを愛称で呼ぶことも、平然とその傍を離れて学園に通学するなどということも、ナナリーを欺くことも、ましてやルルーシュを傷つけるような真似をするはずがないのだから。
 そして今、スザクの前には新しく開発されたばかりの大量破壊兵器フレイヤを積んだランスロットがある。
 行って共に滅びてくるがいい、ただし絶対守護領域を持つ蜃気楼に乗るルルーシュは別にして、とのシュナイゼルの思惑の下に。

── The End




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