存在証明




 人は皆、何らかの意味を持って生きていると言えるのだろうか。そしてまた逆に、死ぬ意味もあるのだろうか。人の生き死には、全て意味を持っていると言えるのだろうか。
 卜部は、本来ならゼロであるルルーシュ・ランペルージを奪回する作戦時に死んでいてもおかしくはなかった。それが大怪我を負い、長い療養生活に入らざるを得なかったとはいえ、生き延びたのは、今はまだ死ぬ時ではないとの天命と考えた。卜部はゼロを、ルルーシュを信じた。その信じる相手のために何かを為すために。己は生き延びたのだろうと、そう考えた。
 シャーリーは死んでもおかしくはない重傷を負った。それが助かったのは、ルルーシュの“死ぬな”のギアスが効いたからかどうなのか、それは本人にもルルーシュにも分からない。だが現実にシャーリーは死なずに助かった。瀕死の重傷で母親には大層嘆かれたが。そして自分を撃った少年が何者であるのか、知っていながらシャーリーは無言を通した。見たこともない知らない相手だったとして。それは本来なら、彼は存在しないはずのものであり、また、彼をそのような行為に走らせたのが自分の言葉にあったからだと理解したからだ。少年は恐れたのだ。自分によって己の立場を失うことを。それに気付いたから、シャーリーは黙することを決意した。何よりも必死で彼を守ろうとしていた少年のために。
 ロロの命が助かったのは、奇跡と言ってよかった。ギアスを行使する度に心停止するロロは、ギアスの多用により、あまりにも心臓に負担を掛け過ぎた。だがそれでも、己の命と引き換えにしてでも兄を助けたかった。血の繋がりはない。利用されていただけだったのでもいい。それでも少なくとも共に過ごした一年間は本物だったと信じたかった。生まれて初めて得た愛情を、それを与えてくれた存在を失いたくはなかった。だから必死だった。自分が一度は心肺停止状態になり、それによって兄がどれ程の絶望を味わったのかを知ったのは、息を吹き返した後だった。それからは、ただただ兄のために生きると決めた。誰よりも強く、そしてまた弱い兄のために。



 帝都ペンドラゴンが天空要塞ダモクレスから投下された大量破壊兵器フレイヤによって消滅した後、旧都ヴラニクスは再び神聖ブリタニア帝国の帝都と定められ、改めて立て直しされた宮殿の一角で、三人はのんびりと咲世子の用意したお茶の時間を楽しんでいた。ちなみに、咲世子は今は騎士としてではなく女官長として、奥に控えている。
 本来ならこの席には、あと三人の存在があるはずなのだが、そのうちの一人、ブリタニアの第99代皇帝であるルルーシュは、現在、超合集国連合の新たな評議会議長である合衆国インドの代表と、通信による会談を行っており、よって、もう一人のジェレミアはルルーシュの筆頭騎士、すなわちナイト・オブ・ワンとしてその傍らにある。いま一人はジェレミアの保護下でルルーシュの騎士となっているアーニャであり、彼女もまた、ジェレミアと共にルルーシュの傍らにある。
「いまさらだけど、黒の騎士団て馬鹿ばっかりだったのねー」
「そうだな。藤堂中佐ももう少し頭の切れる人だと思ってたんだが、思い違いだったな」
「そうですね。シュナイゼルの言葉に簡単に騙されて冷静に判断を下せないなんて、指導者としてはどうかと思いますね」
 上から順に、シャーリー、卜部、ロロである。
 三人はゼロであったルルーシュが黒の騎士団の裏切りにあって逃げ延びた後で、落ち合ったのだ。それぞれがそれぞれに心配して。とはいえ、ロロは最初からルルーシュと行動を共にしており、残る二人に連絡を付けた結果なのだが。
 神根島で両親の真実を知ったルルーシュは、神たる集合無意識にギアスを行使し、結果、シャルルとマリアンヌは消失した。
 神は二人の存在を許さなかったのだ。ならば本来なら命を落としていてもおかしくない状態にあった自分たちが生き延びたのは、全てはこの時のため、神の意思だったのだろうと三人は思った。
 そしてルルーシュの助けになりたいと、卜部は藤堂たちとの繋がりを捨て、シャーリーは何も出来なくてもルルーシュの心を守りたいと母を説得して、ルルーシュとロロの元へと馳せ参じた。
 その後、ルルーシュはシャルルを弑逆した強者として、ギアスの行使があったとはいえ、神聖ブリタニア帝国の第99代皇帝として即位した。
 そしてルルーシュからの要望である、ブリタニアの超合衆国連合への参加を討議するために開催された、超合集国連合臨時最高評議会での愚かな会談の後、ペンドラゴンにフレイヤを投下し、億に上る民衆を虐殺したダモクレス陣営と、それに加わった愚かな黒の騎士団を相手に、ルルーシュは、ジェレミア、咲世子、卜部、そして出来るなら戦いの場にはもう出ないでいて欲しいと願っていたロロが騎士として出陣し、ニーナの協力を得て創り上げられたアンチ・フレイヤ・システムをどうにか()かしきり、勝利を収めた。
 当初は自分が全ての悪意を背負って死に、後に優しい世界を遺す予定でいたルルーシュだったが、それはシャーリーによって止められた。曰く、ルルーシュのいない世界は、自分にとっては少しも優しい世界ではない、との言葉に。自分のために命を落としかけた少女のその言葉に、ルルーシュに否という言葉は言えなかった。
 結果、ルルーシュは世界を征服した“悪逆皇帝”として死ぬこともなく、寧ろ逆に、ナンバーズ制度を廃止してブリタニア人と平等とし、皇族や貴族たちの既得権益を廃し、加えて、いずれ復興具合を鑑みながらエリアを解放すると宣言、民に優しい政治を行う“賢帝”として忙しい日々を送っている。
 一方、アッシュフォード学園で開かれた臨時最高評議会において、ルルーシュを“悪逆皇帝”と罵り、ルルーシュを檻に閉じ込めるという暴挙に出た超合集国連合最高評議会議長皇神楽耶は、議長の座を追われ、今は蟄居の身となって合衆国日本の代表の座も退()いている。また、黒の騎士団は評議会において何の発言権もないにもかかわらず、閉じ込めた一国の君主たるルルーシュに武力を背景とした内政干渉を行い、その上、フレイヤを要するダモクレス陣営に加わって戦っていたことから、その存在を忌避されるようになり、解体に追い込まれ、現在では新たな連合軍が構成されている。黒の騎士団の主だった幹部たちは、顔と名を知られていることもあり、公に出ることも出来ないような立場に追い込まれている。
 敗れたダモクレス陣営だが、シュナイゼルはギアスによってルルーシュの支配下にあり、影の参謀としてその役目を担っているが、コーネリアとナナリーは小さな離宮に謹慎の身となっている。それでも離宮を出ない限り生活には何の不自由もない。ナナリーは未だにルルーシュは間違っていると叫び続けているようだが、ルルーシュに心酔しているといっていい臣下たちは、その言葉に耳を貸すことはない。
 そしてナイト・オブ・ワンとなって日本を取り戻すと息巻いていたスザクは、シャルルの暗殺に失敗した後、アーニャに見つけ出されて、アーニャの中にいたマリアンヌと共にCの世界に足を踏み入れ全てを知ったが、それでもなお、ルルーシュをユーフェミアの仇と言い切る様に、Cの世界を出た後、ロロがギアスを使ってスザクの時を止め、そのまま神根島に放置した。その後、他のラウンズたちと合流したようだが、ビスマルクの証言から、スザクはシャルルの暗殺を謀った罪人として処断されたと風の噂に聞く。
 そのビスマルクをはじめとするラウンズたちも、最早存在しない。ダモクレスとのフジ決戦の前に、ジェレミアをはじめとするルルーシュの騎士たちが、主の仇と攻め寄せてきた彼らを討ち取っている。唯一の例外は、神根島において、ジェレミアからギアス・キャンセラーを掛けられ、シャルルとマリアンヌの二人から掛けられていたギアスから解放され、ルルーシュについたシックスのアーニャだけである。もちろん、ダモクレスとの戦いの場においてもブリタニア正規軍に席を置き、共に出陣して奮戦していた。
 こうして結果としてみれば、ルルーシュの生を望む者だけが生き残り、ルルーシュの命を狙った者たちは悉く死を迎えるか、生きていても表に出ることの出来ない立場に追い込まれている。
 つまるところそれが神の意思であり、ルルーシュを守ることが彼らの何よりの生きる理由であり、逆にまたその存在を証明していることになっている。神の意思はルルーシュを守る側にあったのだろう、ルルーシュのギアスにかかるその前から。だからこそ神はルルーシュのギアスを聞き入れ、生き延びる命と、死者となるべき者を選別していたのかもしれない。

── The End




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