心 情




 シュナイゼルが黒の騎士団の本部であるトレーラーにやって来た時、ルルーシュはまさかと思った。帝国宰相という立場の人間が、副官やSPを連れてとはいえ、わざわざ何のために出向いて来たのかと。しかもその上、ゼロの正体がルルーシュであることを見抜いてのことだというのだからなおさらだ。
 その異母兄あには、父を倒して現在の膿んだブリタニアを変えるという。そのために帝国宰相という地位にまで登りつめたのだと。そしてルルーシュに対して、エリア11、すなわち日本の独立のための援助をするという。
 一体何処まで信用していいものなのか。帝国宰相たる者の言葉を何処まで信頼していいのか、ルルーシュは異母とはいえ血の繋がった兄と弟としてではなく、帝国宰相とテロリストのゼロとしての立場で考えてみる。
 確かにシュナイゼルの言うように、ブリタニアは既に膿んでいる。シャルルの言うような進化などでは決してない。進化した国が、武力でもって他の国を制圧していくなどということは有り得ない。
 武力というものは、外交上の最後のカードであって、最初から切るべきカードではない。本来話し合いが基本だ。その基本を知らず、最初から武力で進むブリタニアに、進化という言葉は当てはまらない。
 そしてそれを推し進めているのが帝国宰相であるシュナイゼルの役目でもある。
 そんなシュナイゼルを、異母兄を、その言葉を、何処まで信用出来るというのか。
 だが実際にシュナイゼルの言ったように、エリア11副総督であるユーフェミアの提唱した”行政特区日本”は失敗に終わった。
 加えて騎士団に対して、確かにシュナイゼルからと思われる援助も増えている。
 信じてもよいのだろうかと思う。かつては異母兄弟姉妹の中で最も慕わしかった人だ。出来るなら疑いたくはない。その人の言葉を信じたいと思う一方で、ブリタニアから、実の父から受けた仕打ちを考えた時、本当に信頼していいのかという疑問が浮かび上がるのを止めることが出来ない。
 だが、事は全てシュナイゼルが述べたように進んでいく。
 ユーフェミアの失態を理由に総督であるコーネリアは更迭され、黒の騎士団としてはコーネリアよりも遥かに相手として組しやすいカラレスが総督として送り込まれてきた。
 シュナイゼルに言われたようにカラレスを倒し、エリア11を日本として解放すると同時期に、ブリタニアでも騒動が起きていることは耳に入ってきていた。
 主義者たちを中心に、現在のブリタニアの在り方に疑問を持つ者たちが、暴動を、クーデターを起こしたという。
 そしてそんな中、あれ程に頑健であった皇帝シャルルが、本当に病気か事故か知れないが、死亡したと発表された。シュナイゼルの言葉を聞いているルルーシュは、シュナイゼルがシャルルを殺めたものと確信しているが。
 シュナイゼルはルルーシュに告げた通りの行動を起こしている。
 ならば今度はこちらの番なのだろうか。
 シュナイゼルは仮面を外した自分と会いたいと言ってきている。
 解放なった日本にゼロは最早不要だ。ゼロの唱えた博愛主義は、人は皆平等であるとの言葉は、桐原をはじめとするキョウト六家によってきっと守られるだろう。
 確かにブリタニアの侵攻以来、エリアとなってブリタニア人に虐げられてきたことを考えれば、いきなりブリタニア人も日本人も同じ人間であり、人は皆平等であり、強者が弱者を虐げるようなことがあってはならないなどと、いくら口当たりのいいことを言っても、果たして人が何処までそれを実現出来るかと言えば、大いに疑問ではある。
 しかし不可能を可能にする男、ゼロとして、自分は言ったことを実行に移してきたと、ルルーシュは多少なりとも自負している。そしてその自分の言葉が、日本の人々の心にきっと響いていると信じている。だからすぐには無理でも、いつかきっと人々は、誰もが平等な社会へと歩み出すだろうと信じている。
 もしかしたら信じすぎなのかもしれない。だが人には理性というものがある。だからそれを信じたいと思うのだ。
 そしてだからこそ、自分もまた、己の告げたことを、確かに実行に移したシュナイゼルを信じたいと思った。
 しかし未だ体制の整わないブリタニアに、身体障害を抱える、今までのブリタニアでは弱者としかなり得ない妹のナナリーを連れていくのは、どうしても憚られる。
 独立を果たした日本と、これから新たに生まれ変わろうとしているブリタニア。そこには話し合いの余地が生まれる。いや、きっとシュナイゼルはそれを生み出すだろう。
 ならば自分一人がナナリーをおいてブリタニアに渡ったとしても、もう二度とナナリーに会うことが叶わないなどということは有り得ないと、ルルーシュはそう思う。それはもしかしたらシュナイゼルを信用し過ぎのことなのかもしれないと、一方で思うが、これまでのシュナイゼルの言動から判断する限り、信用に足るとも思えるのだ。もしかしたら、それは思えるというより、思いたい、との願望なのかもしれないが。
 そうしてルルーシュは自分だけブリタニアに帰国する決意を固めた。ナナリーのことはミレイに託せば、きっとよく取り計らってくれるはずだと信じられるから。
 これまでゼロとしてあるルルーシュに、シュナイゼルは協力してくれた。ならばこれからはゼロではなく、異母弟おとうとのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして、信頼するに足る異母兄であるシュナイゼルのために、役立つべきなのだろうと考えて。
 結果、幾度もの熟慮の末、ルルーシュは一人、ブリタニアに向かう機上の人となった。

── The End




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