暴かれた真実




 エリア11のトウキョウ租界において、建築間もないバベルタワーがテロによって崩壊した。その崩壊に巻き込まれ、コーネリアの後任として、エリア11の暫定総督を務めていたカラレス提督の死亡も、本国へと報告された。



 バベルタワー崩壊の知らせに、ナイト・オブ・セブンであるスザクは思った。ルルーシュが関係しているのではないかと。
 バベルタワーにはカジノがあり、その中では賭けチェスも行われている。そして賭けチェスといえば、過去の経験から思い浮かぶのはルルーシュだった。黒の騎士団の残党がゼロであるルルーシュを奪回するために取った行動なのではないかと考えたのだ。実際、そのテロは黒の騎士団によるものとの見方が強かったのも事実だ。
 しかしその後、捕えられていた黒の騎士団の幹部や構成員が公開処刑されたものの、その場にゼロが姿を現すことはなかった。
 だからといってルルーシュが記憶を取り戻していないとも言いきれず、そうしてスザクは、カラレス亡き後のエリア11を継ぐ、新任の総督が到着する前に、事の真偽を確かめようとエリア11に、トウキョウ租界に、その中にある私立アッシュフォード学園に一年振りで戻って来た。
 単位不足から留年して未だ生徒会長の職にあるミレイ・アッシュフォードの提案により、スザクの復学記念パーティーが催された。
 パーティーの後半、スザクはパーティーを抜け出して、会場の屋上にルルーシュを呼び出した。
「どうしたんだ、スザク?」
 ルルーシュは何事もないようにスザクに尋ねてくる。
「ルルーシュ、僕はワンになって日本を取り戻す」
 スザクのその突然の言葉に、ルルーシュは一瞬目を見開き、次いで笑い始めた。
「おまえがワンになる? 冗談も休み休み言えよ。ヴァルトシュタイン卿がいる限り、おまえがワンになれるはずがないだろう。第一、もし万が一おまえがワンになれたとして、それでどうして日本が返るんだ? ワンの所領になっても、ここがエリア11であることには変わりはない、日本じゃない、あくまでエリア11のままなんだぞ」
「何でそんなふうに笑うんだ。僕は本気だ。僕はワンになってみせる。そのために功績を上げてるんだ。いつかきっとワンになってこのエリア11を貰い受ける。そうしたらここを以前の日本のように……」
「だからそれは無理だって言ってるんだ、スザク。ヴァルトシュタイン卿はシャルル皇帝が最も信頼する臣下だ。そのヴァルトシュタイン卿がいる限り、他の者が彼に代わってワンになることなど有り得ない。
 それにさっきも言ったが、ワンの所領になったとしても、ここはあくまでブリタニアの属領であるエリア11であることに変わりはない。従って、仮におまえがワンになってこのエリアを所領として貰い受けてたとしも、ここが以前の日本のようになることなんて有り得ないんだよ。第一、それだってあくまでおまえがワンでいる間だけのことにすぎない。おまえがワンでなくなれば、また元に戻るだけだ。叶わぬ夢を見るのはやめろ」
 ルルーシュの言葉に、スザクは馬鹿にされたような感じを受けた。己の真意を馬鹿にされていると。物事を分かっていない愚か者と。
「だからってテロみたいな行為では物事は解決しない。ゼロのようなやり方は間違ってる。僕は正しい方法で……」
「そのゼロを捕まえたのはおまえだろう? スザク。もうゼロはいない。ゼロがしてのけてたようなテロを行えるテロ組織はもうこのエリアには存在しない。一年前のブラック・リベリオンで大敗して、あとは本当に小さな小競り合い程度のものが散発してるだけだ」
 ルルーシュの紡ぎだす言葉に、スザクは自分の持っている疑惑に疑問を感じ始めた。このルルーシュは本当に記憶を思い出してはいないのか? あのバベルタワーのテロとは関係なかったのか?
 スザクは真実を暴くべく、携帯を取り出した。
「ルルーシュ、君に話をして欲しい方がいるんだ」
 そう言って相手に繋いだ携帯をルルーシュに差し出す。ルルーシュは首を捻りながらもそれを受け取った。
「もしもし」
『お兄さま! その声はお兄さまですね』
「ああ、なんだナナリーか。一年振りかな、元気でやっているかい?」
『元気でやっているかはないじゃありませんか!? 突然お兄さまが行方不明になられて、私がこの一年どれ程心配していたことか!』
「!!」
 その会話に、スザクはやはりルルーシュは記憶を取り戻していたと確信した。しかし疑問は残る。何故ゼロにならない。ゼロとして現れない。何故公開処刑された黒の騎士団の者たちを見殺しにした。
『でももういいです。ご無事が確認出来ましたから。それに私、これからエリア11に行くんです。シュナイゼルお異母兄にいさまのおかげもあったんですけど、お父さまが私をエリア11の総督に任命してくださったんです』
「なんだ、じゃあナナリーは本国でルルーシュに会わなかったのか?」
『えっ?』
「何っ!?」
 携帯越しのナナリーと、目の前のスザクが同時に驚きの声を上げた。
「おまえの本当の兄のルルーシュは、ずっと本国にいて、本国から外に出たことなんかないんだぞ」
『ど、どういうことです!?』
 携帯の向こうのナナリーの顔が蒼褪めるのが、見えずともルルーシュには分かった。今この場で、スザクも顔面を蒼白にしているが故に。
「俺はおまえの兄であるルルーシュの影武者だ。母方の遠縁でよく似ているからと、シャルル皇帝によって本物のルルーシュの代わりにおまえの兄の身代わりを務めていたんだよ。催眠術を掛けられて、おまえの本当の兄だと俺自身思い込まされてね。けどそれも、今ではもう思い出したから、ナナリーとは母方の遠縁だから全く関係ないわけじゃないけど、兄でも妹でもないんだよ」
『そんなっ! そんなことあるはずありません!! お兄さまはお兄さまです、何か勘違いされてるんです!』
「間違っているのはおまえの方だよ、ナナリー。ああ、スザクもだな。もっともスザクは最初から俺と会ってたんだから間違えても仕方ないが」
「君がルルーシュじゃないって、そんな馬鹿なっ!!」
『私がお兄さまを間違えるはずがありません!』
「けど実際に間違えてる。おまえが視力を失ってからは俺としか会ってない。そしておまえは俺と本当のルルーシュとの違いに気付かなかった。まあ、俺自身が自分をルルーシュと思ってたんだから、それだけ、完璧だったってことなんだろうけどな」
『そんなっ……!』
「だから俺はおまえの兄ではないんだよ。今となってはおまえとの兄妹ごっこは楽しかったよ、大変ではあったけど。今はスザクのおかげで弟がいるんだ。可愛い奴だよ。俺はその弟と楽しく仲良くやってるから、おまえもおまえで楽しく過ごせばいい。多分俺とは、そして本当のルルーシュとも、もう会うことはないだろうけど。じゃあ、元気でな。このエリアの総督になるんだろ、しっかりやれよ」
 そう言って、ルルーシュは繋がったままの携帯をスザクに手渡した。受け取るスザクの手が震えている。
『スザクさん、どういうことです? お兄さまがお兄さまじゃないって、貴方のおかげで今は弟がいるって!?』
 泣き出しそうな、いや、既に泣いているのだろうナナリーの叫びが聞こえる。
「ナ、ナナリー、僕にも分からない、一体どういうことなのか……」
 スザクにはそう答えるのがやっとで、その声も震えていた。
「ならば思い出させてやろうか?」
 ふいに後ろから女の声がして、スザクは振り向いた。
 そこにいるのはライトグリーンの髪と琥珀色の瞳をもつ一人の少女。かつてゼロの傍にいた少女── C.C.── だった。
「き、君はっ!?」
 C.C.は右手を伸ばしスザクの額に触れた。C.C.の髪が舞い上がり、その額に赤い紋章が浮かび上がる。
 その途端、スザクの脳裏に蘇るものがあった。
 このエリアに来る前、ブリタニア本国の帝都ペンドラゴンにある宮殿で出会ったルルーシュ、そしてその傍らにある皇帝の姿。
「!!」
「本国にいるルルーシュこそが本物のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。シャルルが自分の次の皇帝にと考えて、皆に内密で帝王学やら何やらを教え込んでいる奴だよ」
『どうしたんです、スザクさん? 今の女の人の声は何です、何て言ったんです!? スザクさん!!』
 スザクは力を失ったように床に跪き、携帯を手から滑り落とした。
『スザクさん! スザクさんっ!!』
 携帯からは状況を知ろうと必死なナナリーのスザクを呼ぶ叫び声が続く。
 スザクはルルーシュとC.C.が姿を消したことにも気付かずに、ただ力なく蹲るだけで、その傍らからナナリーのスザクを呼ぶ声がするのにも一向に気が付かない。星空の下、スザクの名を呼ぶナナリーの声だけが虚しく響き渡る。

── The End




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