続・孤独な戦い




 ルルーシュは絶対遵守という(ギアス)を得てから、租界内でイレブンを虐げているブリタニア人を見ては、その力を使って対峙してきた。
 しかしそれが如何程のことだというのだろう。ただのその場限りのことだ。
 そんなことは分かっていても、ルルーシュにはそれ以外に力の使い道を見出せなかった。
 身体障害を抱えた、ブリタニアでは弱者に分類される妹のナナリーが望む“優しい世界”、それを考えるならば、もっと何か別の方法を、行動を起こすべきなのか。けれど皇室から隠れ住んでいる自分に、果たして何が出来るというのか。そこでルルーシュの思考は停止してしまう。
 独立を求めて、虚しいテロ行為を続けるイレブン── 日本人── と自分と、何が違うというのだろうとも思う。
 正体を隠してテロ組織を創ってブリタニアに反逆するのも一つの手だろうかと、考えたことがなかったといったら嘘になる。考えて、結果、無理だと判断したのだ。
 正体の知れない存在についてくるような奇特な存在はいないだろう。仮にいたとしても、いつかその正体を巡って言い争いになるかもしれない。ヘタをすればブリタニア人であることだけではなく、元とつくとはいえ皇子だということが知れて、ブリタニアに売られるかもしれない。裏切られるかもしれない。そう考えると、それだけは避けねばならないと、ブリタニアに対する反逆組織を創るという手段は除外せざるを得なかった。
 しかし本当にそれでいいのだろうかという疑問が、常につきまとう。
 今のままではずっとアッシュフォードに匿われ、皇室から隠れる日々を送るだけだ。そしてそれとて、果たしていつまで続けられるか分からない。
 現在のアッシュフォードの当主であるルーベンは信頼出来る。けれどその息子夫婦、つまり次代のアッシュフォード家当主がそうであるとは限らない。ルーベンの孫娘であるミレイは、ルーベン同様信頼出来る存在だが、息子夫婦に対しては、そしてその他の一族に対しては、正直そこまでの信頼はしていない。今はルーベンが抑えているが、ルーベンが亡くなった後、一族の総意として、自分とナナリーは、良くてアッシュフォードの庇護から追い出されるか、ヘタをすれば皇室に売られるだろう。その確率は高いとルルーシュは見ている。
 そして考える。
 売られるくらいならば、ルーベンが健在なうちにナナリーのことを任せて、自分一人ブリタニアに乗り込むという手もあるのではないか。
 今の自分にはギアスがある。この力を上手く使えば、現在のブリタニアを内から変えることは出来ないかと。ナナリーの安全さえ確保出来れば、それが一番良い方法なのではないか、そうルルーシュは思案した。
 ルルーシュにギアスを与えたC.C.と名乗る、本人曰く魔女は、ルルーシュに何をしろとは言わない。ギアスを与える代わりに、ただ自分の望みを叶えてくれればいいと言いながら、肝心の望みを言わない。それは言わないのではなく言えないのではないかとも思う。
 つまり現在のルルーシュでは無理だということではないのか。ではどうなれば自分はC.C.の望みを叶えられるようになるというのだろう。だがそれもまた、肝心のC.C.が何も言わない状況では分かりようがない。
 誰もいない自室でただ一人、考えあぐねて深い溜息を吐き出す。
 溜息を吐くと幸福が一つ逃げていくというが、果たして自分の将来(みらい)に、そもそも幸福などというものがあるのだろうかと思う。
 自分が幸福でいられたのは、母のマリアンヌが生存していた時までだ。それからは地獄の日々といっていい。今の状態が幸福に見えるとしたら、それはあくまで仮初のものでしかない。だが自分はともかく、ナナリーに対しては本当の幸福を、彼女の望む“優しい世界”を与えてやりたいと、兄としては切実に願っている。
 ならばやはり、たとえ今は離ればなれになろうとも、ルーベンとミレイにナナリーを託して、己一人、絶対遵守というギアスを切り札に、本国に、皇室に戻り、力を得て、ブリタニアを内から変えるのが。やはり一番の方法なのではないか。



 思案に思案を重ねたルルーシュは、一人、ブリタニアに、皇室に戻る決心をした。
 何が待ち受けているか知れない。行って死んでこいと、七年前の緊張関係にあった日本に送られた庶民出の皇妃の皇子など、最早その存在すら忘れられている可能性もある。何せルルーシュたち兄妹は、ブリタニアの日本侵攻の折りに死んだことになっているのだから。
 しかし僅かなりともブリタニアの内に入り込み、内から変えていける可能性があるならば、それに賭けてみるのも悪くない。
 でなければ絶対遵守のギアスも、唯の持ち腐れになりそうな気がして、ルルーシュはナナリーのことをくれぐれもとルーベンとミレイに託し、一人、ブリタニア本国に向かった。

── The End




【INDEX】