天空要塞ダモクレスとのフジ決戦終結後、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、改めて超合集国連合との会談を申し入れた。それを受けた超合集国連合側は、その申し入れを受け入れないなどということは出来はしなかった。
超合集国連合の外部組織である黒の騎士団は、ダモクレス陣営の一陣としてルルーシュと戦い、そして敗れた。つまり超合集国連合は敗残者なのである。それを「改めて会談を」と言われたのだ。断れようはずがない。
ブリタニアとの会談の前に、超合集国連合は臨時最高評議会を開いた。だが、内実は評議会というよりも査問会に近いものだった。
前回のルルーシュとの会談における超合集国連合最高評議会議長である皇神楽耶の独断専行と、外部組織である黒の騎士団からのブリタニアに対する過度の内政干渉ともとれる横槍。それらがなければ超合集国連合評議会の議員たちがルルーシュ率いるブリタニア陣営に、人質として取られることもなく、あくまで第三者の立場を貫くことが出来たのである。それをぶち壊しにしたのが神楽耶と黒の騎士団の行為である。
神楽耶は他の議員に諮ることなく、ルルーシュを檻に閉じ込めるという行動に出、黒の騎士団はそうして閉じ込めた彼に対して、彼を非難し、かつ、ブリタニアに対する数々の内政干渉と言える発言を行い、あまつさえ、そうして黒の騎士団に、つまりは超合集国連合に捕えられた皇帝を救うべく、文字通り飛んで来た皇帝ルルーシュの騎士であるナイト・オブ・ゼロのKMFランスロットによって超合集国連合の議員たちは、人質として逆に捕らわれることとなったのだ。つまりは神楽耶と黒の騎士団の行為がなければ、ブリタニアとの交渉は無事に済んでいただろうことが察せられただけに、連合は改めてのブリタニアとの、ルルーシュとの会談の前に、それらの事態を招いた責任者たちの更迭を諮ったのである。
敗残者に発言権はなかったと言っていい。
神楽耶や扇たちの言う、ルルーシュが持つというギアスなどというわけの分からぬ異能を、一体誰が信じると思ったのだろうか。
もし仮にギアスというものがあったのだとして、一体どうやって扇たちはそれを知り得たというのか。
そこで改めて問題となったのが、ゼロ死亡の経緯からシュナイゼルたちと黒の騎士団の連携ともいえる行動だった。
ゼロ死亡の報の前、シュナイゼルが黒の騎士団の旗艦“斑鳩”を訪れていたこと、ゼロの専用機であるKMF蜃気楼が敵に奪取されたとして撃墜命令が出されたこと、続く神根島でのブリタニア軍と黒の騎士団の共闘。
それらの疑問が出される中、まるで耐えられなくなったかのように扇が叫んだ。
「ルルーシュがゼロだったんだ! 奴は俺たちを裏切って、駒として戦争をゲームみたいに楽しんでたんだ!」 その発言に、議員の殆どが呆気にとられた。
「仮に君の発言が事実だったとして、君たちがゼロによってギアスを掛けられていたというなら、どうして君たちはゼロを裏切るなどという行為に出ることが出来たのかな?」
ある議員から投げ掛けられた問いに、扇はわけが分からないという表情をして見返した。
「本当に掛けられていたとしたら、まず第一に自分を裏切らないようにさせたのじゃないのかね」
「つまりゼロを裏切り、シュナイゼルに売ろうとしたところで、君たちに対してそのギアスとやらは掛けられていなかったことになる」
「第一、君たちが言うシュナイゼルの提示した証拠というのが、本当に本物であったとは限らない。彼らが自分たちに都合のいいようなものだけを用意する、あるいは改竄する、そしてそれらを証拠として提示するというのは、少し考えれば分かることだ。敵が自分たちにとって都合の悪い証拠を提示してくるようなことは、ありえないからね」
「それとも何かね、君たちが自分で何も判断出来ないようにというギアスが掛けられていたのかね」
「それはそれで不自然ですね。貴方方はゼロを敵に売るという裏切り行為を行うことを、自ら決めたのですから」
「そ、それは……」
次々と投げ掛けられる議員の言葉に、扇は返す言葉を失い、他の幹部たちの扇に向ける視線は、自然と訝しむものに変わっていった。
「そういえば扇、おまえが地下協力員だって連れて来た女、ブラック・リベリオンの時に、おまえに向けて銃を撃って傷を負わせて本部を混乱に陥れた女だったよな」
「あの女、確かブリタニアの純血派の奴じゃなかったか」
他の幹部たちの、一年前に失敗した当時の黒の騎士団におけるブラック・リベリオン時のことに対する言及に、会場はざわめいた。
ゼロの親衛隊長であった紅月カレンも評議会に呼ばれた。
カレンは扇程図々しくなれなかった。また狡猾な大人たちを前に嘘を付ける程に厚顔ではなかった。かつてアッシュフォードで仮面を被っていられたのは、周囲にいるのが殆ど同年代の少年少女たちだったからに過ぎなかったのだ。
そこで明らかにされたのは、ブラック・リベリオン時におけるカレンの行動。つまり、みすみす枢木スザクにゼロを捕えられ、カレン自身は逃げ出したこと。その時からゼロが何者かを知りながら、誰にも話していなかったこと。話していたならゼロに対する裏切りは起こらなかったかもしれないにもかかわらず。
第2次トウキョウ決戦においては、問題となったゼロに対する裏切り行為の中で、カレンも結果的にその中に加わったこと、アッシュフォード学園における超合集国連合の臨時最高評議会において、学園内にカレンのKMF紅蓮を潜ませ、ランスロットが現れた時には、議員たちのことを考えずに対抗しようとしていたこと。フジ決戦に至っては、積極的にルルーシュを、つまりはゼロを倒すのは自分だと言い張っていたことなどが暴かれていった。
結果として、神楽耶や黒の騎士団の事務総長である扇をはじめとする日本人幹部たちは、彼らの言い分を聞いてもらうことも出来ずに、その立場から追いやられることとなった。
神楽耶は評議会議長の座を降ろされ、一端の議員となった。それでもまだ合衆国日本の代表の立場までは失ってはいないが、人口僅か100万の合衆国日本に、如何程のことが出来ようか。そして扇たちは黒の騎士団から排除された。
もちろんカレンもだ。紅蓮のデヴァイサーとなれる者は、黒の騎士団の中には他に存在しなかったが、だからといってゼロを裏切った存在をそのままにしておくことは出来ない。ゼロ、すなわちルルーシュを裏切った存在をのさばらせておくことは、対ブリタニアという視点で考えれば出来ようはずがないのだ。
そうしてゼロを裏切った者たちは、皆、黒の騎士団から排除された。
ルルーシュは超合集国連合との会談にあたり、神楽耶が議長の座から追われたことについても、扇やカレンたちが黒の騎士団から追われたことについても、もちろん情報として取得してはいたが、一切口に出さなかった。いまさらそれを口にしたところで、何がどうなるものでもない。ただそれを超合集国連合側の誠意として黙って受け入れるだけだ。
しかしそれはあくまでルルーシュ個人の事情であって、一般社会は異なる。
秘密はどれ程に隠匿していてもいつかは知れるものである。ましてや神楽耶が議長職を辞し、事務総長であった扇をはじめとした日本人幹部の殆どが黒の騎士団から排除されたのだ。様々な憶測も飛び交う。
そうして秘密は漏れ出て、巷を駆け巡る。
以前は日本人たちの期待の星といってよかった、扇をはじめとする黒の騎士団の元日本人幹部たち、元親衛隊長紅月カレンの名は、裏切り者として地に堕ちたといっていい。
たとえ当事者であるルルーシュが何も言わずとも、否、言わないからこそ余計になのだろうか、彼らを見る他の人間たちの視線は、自然と冷たいものとなるのを否めない。
ルルーシュはそれらのことについて発言を求められることがあっても、何も答えることなく、つまりは否定も肯定もせず、ただ超合集国連合との会談での取り決めを黙々と実行に移している。
かつて第98代皇帝シャルルの下で広げられたブリタニアの版図、エリアは復興状況と照らし合わせながら順次解放を行い、平等な条約を結ぶことを推し進めるための法律を策定し、また人権に関する啓蒙活動も行っている。
エリアとなった国が独立し終えるにはまだ相当な時間がかかるであろうし、人の意識はそう簡単には変えられるものでもない。だが確実に、世界はルルーシュの指導の下、そしてまた、話し合いによって世界を動かすという、かつてゼロが唱えた理念の下、ブリタニアの旧悪弊から、強者や弱者といった差別意識からも解放されつつある。
── The End
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