偽　り

　崩れゆくバベルタワーの中、C.C.によってルルーシュは、シャルルに書き換えられていた己の記憶を取り戻した。
　その中には、あまりのことに愕然とした事実までもがあった。
　ナナリーは自分の妹ではなかった。自分は母マリアンヌの一人息子であり、マリアンヌは娘を産んではいなかった。死産だった。それをかつての幼かった自分は知っていた。
　ならば何故ナナリーは存在するのか。
　ルルーシュをブリタニアに縛り付けるために、そのためにシャルルが用意した存在。ナナリーが実の妹だという記憶もまた、シャルルによって書き換えられたものだったのだ。



　受け止めた事実はあまりにも重かった。
　全てはナナリーの望んだ“優しい世界”のためだった。そのためにルルーシュはゼロとなり、修羅の道を選んだ。なのにその一番の要因であるナナリーが、実の妹ではなかったのだ。ロロと同じ偽りの存在。
　けれど、そこに愛情がなかったのかと問われれば、それもまた偽りだ。例え偽りの存在であったにしろ、確かに共に過ごしてきた年月の中にあった、自分のナナリーに対する愛情は本物だったと思う。それが偽りの記憶の下でのものにしろ。
　ならばロロはどうなのだろう。
　ロロも僅か一年とはいえ、弟として傍らにあった存在だ。そこに弟に対する愛情はあった。確かに存在した。
　ナナリーとロロと何処が違う。共に過ごした年月の長さだけだ。ナナリーはルルーシュをブリタニアに縛り付けるためのものであり、ロロはゼロであるルルーシュの記憶が戻るのを監視するためのもの。その存在理由は異なるが、共に偽りの者であることに変わりはないのだ。
　そして偽りだと知った今でも、ナナリーに対する愛情は存在している。妹として愛している。ならばロロはどうなのだ。ロロという弟に対する愛情は存在しないのか。それもまた否だ。
　たった一年ではあったが、自分は確かにロロという弟を愛した。
　ナナリーとロロ、過ごした年月の差は関係ない。自分は偽りとはいえ、確かにナナリーという妹を、そしてロロという弟を愛してきた。そして多分今も愛している。
　しかしナナリーを取り戻したいと思う程に思っているのかと問われれば、疑問符が付くのも事実だ。偽りの妹を取り戻してどうなるというのだろう。偽りの妹は、皇族として現在ブリタニアに存在している。本来ならいないはずの第６皇女として。一年前までの隠れていた生活とは違う。皇女として何不自由ない生活を送っている。身体障害を抱えながらも。
　そこに自分がナナリーが偽りであると知ったと知れたとしたら、ナナリーは果たしてどうなるのだろうか。
　ナナリーには皇室にいる価値がなくなる。何せ偽りの皇女だ。ルルーシュという存在をブリタニアに繋ぎとめるためだけに存在する皇女。
　今のルルーシュは記憶を改竄され、ただの一般市民ということになってはいるが、それでもルルーシュが記憶を取り戻したとして、ブリタニアの皇族であるという事実に変わりはなく、ナナリーが偽りの存在だということまで思い出したということを知られなければ、ナナリーはこれからも、皇女としてルルーシュを繋ぎとめるために、縛るためのカードとして皇室に存在し続けることが出来るだろう。
　ならば、ナナリーのことを考えるなら、自分が思い出したのは自分がゼロであったということだけで、ナナリーという妹が偽りの存在であったことまで思い出したことは、知られぬようにした方がいいのだ。それがナナリーのためだ。ナナリーにしたところで、兄であるルルーシュが実は兄ではないなどと、ましてや自分が実は皇女でもなんでもないと知ったところで、何の益もない。寧ろ皇族を僭称したとして、皇室から追われ、罪人として捕えられるだけだ。
　そうであるならば、自分が思い出したのはゼロであったこと、愛しい妹のナナリーの願いを叶えるため、憎む母国を滅ぼすべく反逆の狼煙を上げたことだけでいい、そうルルーシュは思った。

── The End