神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがゼロによって弑され、戦犯として捕えられ処刑を待つのみだった黒の騎士団の幹部をはじめとする団員たち、超合集国連合最高評議会の各国の代表たる議員たち、そしてシュナイゼルたちが解放され、新たな時代が始まるのだと思われたある日のこと。
蓬莱島の黒の騎士団本部から出てきた藤堂と千葉の前に、一人の老女が立ちふさがった。
「俺たちに何か用ですか?」
「私の娘は、トウキョウ租界の中で仕事をしていて、フレイヤ弾頭の投下によって死にました」
藤堂の問い掛けに老女が唐突に話し始めた。
「それは、お気の毒なことで」
老女の言葉に、藤堂はそれしか返す言葉を持たなかった。
「息子は、黒の騎士団に所属していました」
「いた、ということは、戦死……?」
千葉が疑問形で返す。
「貴方方は一体何をしたかったのですか? 何をしたのですか?」
「何を、とは決まったこと。日本をブリタニアから取り返し、悪逆皇帝ルルーシュを倒すために戦っただけのこと。それは周知の事実だと思うが」
「何故、フレイヤを撃った側に組したんです?」
「ルルーシュを倒すために手を組んだまでで、フレイヤを認めたわけではない」
「けれど実際にフレイヤを持つ相手と組んだということは、フレイヤを認めたということでしょう、違いますか?」
「認めてなどいない」
「フレイヤを認めていなかったのは、ルルーシュの方。彼の方こそが、フレイヤを相手に戦ったのではありませんか!?」
「それでは貴方は悪逆皇帝ルルーシュを認めるというのか?」
「何処が悪逆皇帝です!? ルルーシュ皇帝はナンバーズ制度を廃止し、皇族や貴族たちの持つ既得権益を廃止し、エリアの解放を約束してくれました。それの何処が悪逆皇帝です!? 彼をそう呼んだのは貴方方でしょうっ!?」
最初は静かに話していた老女の声が、だんだん興奮してきたのか、大きくなっていく。
「しかし彼は評議会議員を人質にとり、世界征服を企んだ。それを防ぐのは黒の騎士団としては当然の行為ですよ」
「たった一人で評議会の場に来たルルーシュ皇帝を檻に閉じ込めて、それの何処に正当性があります? それが一国の君主に対する対応ですか? 評議会の議員を人質に取られたのも、元をただせばそんな理不尽な行為を行ったことにあるのではないのですか!?」
「それには言葉に出して告げることは出来ないが、それなりの理由があってのことだ。それより貴方は何が言いたいんだ?」
藤堂は痺れを切らしたように、老女が本当は何を言いたいのか、それを尋ねた。
「私の息子は黒の騎士団員でした」
「それは先程伺いました」
「フジ決戦で戦死しました」
「それはお気の毒です」
「なのに、貴方方はどうして生きているんです?」
「えっ?」
藤堂も千葉も、老女の言葉の意味が分からなかった。
「息子は“奇跡の藤堂”の下で戦うのだから死にはしないと、そう言って出撃しました。なのに、何故息子は死んで貴方方は生きているんです!!」
「そ、それは……」
「貴方方は息子たち配下を盾にして、自分たちだけ生き延びたんじゃないんですか!?」
「そんなことはない! 我々は皆必死に戦っていた。誰かを盾にしたことなどない! そんな策をとったのは寧ろルルーシュの方で……」
「けれど実際、貴方方は生き延びて、息子は死にました。それが事実です。フレイヤを所有する陣営に組した貴方方の方こそ、世界を征服したかったのではないのですか!?」
「そんなことはない!」
老女の余りの言葉に、思わず千葉は叫び返していた。
「ルルーシュ皇帝が死に、世界は今度こそ話し合いと調和の精神の下、平和になる。息子さんのことは気の毒だとは思うが……」
「私が言いたのは、聞きたいのはそんなことじゃない! 娘も息子もフレイヤによって死にました。そして息子の上司であった貴方方が生きている、それが許せないんです! 何故貴方も死ななかったんです!? 何故生き延びているんです!? フレイヤが失くなったのはルルーシュ皇帝のおかげだというのに、私はそのフレイヤで娘も息子も亡くし、貴方方はフレイヤの恩恵を被って生き延びている!! それが許せない! たとえこれからどんな世界が来ようと、貴方方のために息子が亡くなったのは変えようのない事実なんです。“奇跡の藤堂”なんて呼ばれて将軍になって、部下を駒のように扱ったんでしょう!? 違いますか!? 他の誰が許しても、私は貴方方を許しはしません。貴方方の愚かな行為さえなければ、息子は死なずに済んだんですから」
「事実誤認も甚だしい! お子さんを亡くされたのは気の毒に思うが……」
藤堂へのあまりの非難に、千葉は弁明するように言い掛けるが、老女はその言葉を遮った。
「所詮貴方方は人殺しの仲間です。フレイヤでトウキョウ租界を壊滅させ、ブリタニアの帝都であったペンドラゴンを消滅させたフレイヤ陣営に組した、大量殺戮者の仲間です」
「なっ!?」
言いたいことを告げたとばかりに、老女は藤堂たちの言葉を待たずに身を翻して立ち去った。
後に残された藤堂と千葉は、言葉もなくその場に立ち尽くすだけだった。
自分たちが生き延びていることを、息子や娘、家族や友人たちを亡くした者の中には、老女のように考えている者もいるのだと改めて認識させられ、しかし藤堂たちはそれに対する回答を持たず、何も為す術なく、ただ聞くしかないのだと思い知らされただけだった。
── The End
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