エリア11総督クロヴィス・ラ・ブリタニアによるシンジュクゲットー掃討作戦の際、ルルーシュ・ランペルージ、否、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、絶対遵守のギアスという力を手に入れた。誰をも絶対の命令下に置くことの出来る力を。
その力を手に入れて最初にしたことは、自分の命を守ることだった。
正直、自分の命などどうなってもいいと思っているところがルルーシュにはある。それはかつて実の父であるブリタニア皇帝シャルルに、「死んでおる」と言われたことに起因している。しかし自分が死んだ場合、残された妹のナナリーがどうなるか、それを考えるとそう簡単に死ぬわけにはいなかいと思うのだ。何せナナリーは目と足が不自由であり、一人では満足な生活を送れない。ましてやブリタニア皇室から逃れ隠れ暮らしていられるのは、ひとえに自分の存在があるからだとルルーシュは承知している。ルルーシュたち兄妹の現在の庇護者とも言えるルーベン・アッシュフォードがルルーシュたちを匿うに際して一族を納得させた理由が、ルルーシュの存在にあったからだ。そのルルーシュがいなくなれば、ブリタニアでは弱者でしかないナナリーは利用価値がないと、アッシュフォードから見放されかねず、そうなればナナリーは一人で生きていくことは出来ない。だからルルーシュは、妹のナナリーのためだけに、決して死ぬわけにはいかなかった。
だからこそ自分の命を守るためにその力を使ったのだが、果たしてそれだけでよいのかという疑問がついた。
現在、総督の命令で大勢のイレブンと呼ばれるようになった日本人が殺されていっている。ブリタニアの国是を肯定出来ないルルーシュは、数瞬考えた後、行動に移した。シンジュクゲットー掃討作戦を止めるために。
ギアスを使って総督であるクロヴィスのいるG1ベースに入り込んだルルーシュは、クロヴィスを銃で脅してシンジュクゲットー掃討作戦を停止させると、ギアスで自分のことを忘れるように命令してG1ベースを後にした。
起居しているクラブハウスに戻ると、帰りの遅いルルーシュを、妹のナナリーが心配して待っていた。
「お帰りなさいませ、お兄さま。随分とお帰りが遅かったので、心配していました」
「心配を掛けて済まなかったね、ナナリー。途中で事故があって、リヴァルとはぐれてしまったんだ」
「事故? もしかして怪我とか……?」
ルルーシュの言葉にナナリーが眉を寄せる。
「ああ、大丈夫だよ、俺自身が事故にあったわけじゃない。そのトラブルに巻き込まれてしまっただけでね、大したことはないよ。現にこうして無事に帰って来ただろう?」
ルルーシュはそう言いながら、右手で優しくナナリーの頬を撫でた。
「あまり無理や無茶なことはなさらないでくださいね」
「分かっているよ、おまえに心配を掛けるようなことはしないから」
「本当ですね? 約束してくださいね」
「ああ、約束するよ」
ルルーシュはナナリーにそう告げて、もう遅いから寝むように告げると、自分も自室に戻った。
その後、ルルーシュの元へ、シンジュクでルルーシュを庇い、死の間際にルルーシュに力をくれた少女が訪れた。
C.C.と名乗った少女は、自分が不老不死であることと、ギアスのことについてルルーシュに教えた。
ルルーシュにしてみれば少女の不老不死という話は胡散臭いものにしか感じられなかったが、現に、目の前で確かに死んだはずの少女が生きて動いているのを見るに、事実として受け入れざるを得ず、自分の精神安定上、それ以上そのことは考えないことにした。ただギアスという力についての情報はありがたかった。少女が与えると言った力、ギアスがどのようなものなのか、ルルーシュは実感として捉えて使うことが出来たが、知識があるにこしたことはない。だが少女の知識も全てではなくて、結局ルルーシュは実施で己の力がどの程度のものなのかを測るしかなかった。
そんな中、学園に登校してきたクラスメイトのカレン・シュタットフェルトに、シンジュクで見たテロリストの赤毛の少女の姿を見出し、ルルーシュはカレンにギアスを使って話を聞き出した。カレンの話には大した情報はなかったが、その際に、己のギアスは一人につき一回しか使用出来ないと理解出来たのは、ルルーシュにとって大きな収穫とも言えた。
一人につき一回しか使えないならば、使い方をよくよく考える必要が出てくる。それにナナリーとの約束の手前、危険な道に足を踏み入れるわけにはいかない。ルルーシュにとってナナリーは誰よりも大切で、だからそのナナリーとの約束は破るわけにはいかないものだったから。
けれど同時に、ブリタニアの国是はどうしても許容出来ず、ブリタニア人というだけで選民思考を持ち、敗戦国となった日本を植民地とし、そこに住まう人々をナンバーズとしてイレブンと呼び、虐げるブリタニア人を見ると反吐が出る思いは変わらない。それでも以前なら自分には何も出来ないと見過ごしてきたが、今はギアスという力がある。それで何か出来ないか、とも考える。
誰よりも大切なナナリーとの約束と、手に入れた絶対遵守のギアスという力。二つの間でルルーシュは悩んだ。自分は一体何がしたいのか、何が出来るのかと。
結局、答えは無難なところに落ち着いた。
ブリタニアから、その皇室から隠れ住んでいる現状、ナナリーとの約束もあり、ブリタニアの大局を変えるような真似は出来ないが、それでも目の前で起きていることならギアスという力で何とか出来るのではないか。少なくとも、目の前でブリタニア人に弱者として被害を受けている、イレブンと呼ばれるようになった日本人を救うことは出来るのではないか。また、ブリタニア人同士でも、強者と弱者に区別されている中、弱者を救うことは出来るのではないか。
絶対遵守という力の内容を考えれば、ルルーシュが選んだ道はとても小さなものではあったが、それが現状の自分に出来る精一杯のことだと、ルルーシュは割り切ることにして、目の前の、強者が弱者を虐げるのを見逃すことを止めることにした。
そうしてルルーシュの、あまりにも小さくはあるが、ブリタニアへのたった一人での反逆の道は始まった。
── The End
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