実兄と異母兄




 私、ナナリー・エル・ブリタニアには、物心ついた頃からもう一つの、今とは別の記憶がある。
 その記憶の中では、私の名はナナリー・ヴィ・ブリタニア。第5皇妃マリアンヌ様の娘で、第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの3つ違いの妹だった。
 ルルーシュお兄さまは、幼いながらにお母さま譲りの美貌と、皇族の中では皇帝であるお父さまにもっともよく似たロイヤル・パープルと呼ばれる紫電の瞳を持ち、物静かで、聡明で、とても優しくて、そして、そんなお兄さまを巡って、私と、リ家のユフィお異母姉(ねえ)さまは、どちらがお兄さまのお嫁さんになるかよく言い争いをして、そんな私たちを、お兄さまは木陰で読み掛けの本を片手に微笑んで見てらした。
 お母さまは、唯一、皇帝であるお父さまが自ら望み皇妃として迎え入れた、軍人上がりの庶民の出で、そのために他の皇族や貴族たちから、庶民上がりのくせに、と何かというと言われ、私たち兄妹も、庶民腹の卑しい生まれと言われ、蔑まれていた。それはお母さまや私たちが、自分たち選ばれた存在とは違うのだという特権意識からくる蔑みもあったのだろうが、同時に、皇帝から一番の寵愛を受けるお母さまと、その子供である私たちに対する嫉みもあったのではないかと気付いたのは、随分と後のことだった。
 お母さまとお兄さまと私、そして時折訪れるお父さまと、幸せといえる日々を送っていたのだけれど、それがある日、一変した。お母さまがテロリストの手によって暗殺され、その襲撃に巻き込まれた私も、足を撃たれ、また、ショックから失明してしまったのだ。
 そして私が入院している間に、お兄さまはお父さまに、皇帝陛下に直訴したと、反抗したという。その結果、ヴィ家にとって唯一の後見だったアッシュフォード大公爵家は、お母さまを守れなかったことと、お兄さまの失態を招いたことの責任を取らされて爵位を剥奪され、お兄さまだけではなく、私まで、国を追い出され、遠い異国、日本という国へと追いやれれる羽目になった。お父さまや異母兄弟姉妹たちは、両国の親善のための留学、などと言っているが、実態は、私たちは人質、日本を侵略するための口実とするために死んでこいと言われたのだ。
 日本で預けられた先の枢木家での生活は、とてもいいとは言えなかった。そんな中、お兄さまは身障者となった私を懸命に私を守ってくれたけれど、元をただせばこんな境遇になったことの一端はお兄さまにあるのだから当然だろう。
 やがて、ブリタニアは皇族である私たち兄妹がいるのを無視して、私たちに何の連絡もなく日本と開戦した。戦力の差は明らかで、一ヵ月程で日本は敗戦し、エリア11、すなわちブリタニアの11番目の植民地となった。
 戦前も戦中も、そして終戦後も誰もやってこなかった。やって来たのはただ一家、アッシュフォード家だけだった。
 お兄さまとアッシュフォードの当主との間にどのような遣り取りが行われたのかは分からない。ただ、今日から私はナナリー・ランペルージだと言われ、偽りの戸籍、IDを渡され、アッシュフォードがトウキョウ租界に建てた全寮制の学園に入学した。それでも私の身体のこともあってか、私とお兄さまは寮ではなく、クラブハウス内に造られた居住区に入ることとなり、名誉ブリタニア人ではあったが、私の世話のためにメイドを付けてくれたことに、多少は感謝した。
 そしてお兄さましか身内と呼べる存在がいない状況の中、物分かりのいい、兄を慕う優しい妹であるナナリー・ランペルージを演じることにした。本当なら私はブリタニアの皇女で、こんなところにいないで、ブリタニアに戻れば、皇宮内にある離宮で、立場に相応しい生活が出来るはずなのに、と思いながら。
 それからどれくらい経ったのだろう。私は中等部の二年、お兄さまは高等部の二年になっていた。
 そしてそんなある日、突然、総督である第3皇子のクロヴィスお異母兄(にい)さまが殺されたとのニュースが飛び込んできた。しかもその容疑者としてあげられたのは、かつて預けられていた枢木家で唯一親しくなった、その家の息子であるスザクさんだった。
 そのスザクさんの移送中、突然、仮面を被った謎の男が現れて、自分こそがクロヴィスを殺した者だと名乗り、スザクさんを連れて逃亡した。
 クロヴィスお異母兄さまの後任としてエリア11に赴任してきたのは、リ家のコーネリアお異母姉(ねえ)さまと、副総督としてその実妹であるユーフェミアお異母姉さまの二人だった。
 その後、カワグチ湖にあるホテルで開かれていたサクラダイトに関する会議で、日本解放戦線と名乗るテロリストたちにホテルがジャックされ、けれど人質とされた中にユフィお異母姉さまがいたことから、妹を溺愛しているコーネリアお異母姉さまにはこれといった策が取れずにいたところに現れたのが、黒の騎士団と名乗る一団を引き連れた、先にスザクさんを連れ去った仮面の男“ゼロ”で、ブリタニア軍ではなく、彼らによって人質は解放され、事件は解決した。
 けれどその後のナリタの戦いでは、黒の騎士団のとった作戦により、一般の人に多くの犠牲が出た。その中にはお兄さまの同級生、クラスメイトで生徒会でも一緒のシャーリーさんのお父さまがいらした。お兄さまは、あれはブリタニア軍がきちんと避難勧告を出していなかったことにも責任がある、と言っていたけれど。
 それから黒の騎士団はブリタニア人、イレブンに関係なく、悪事を働いている人たちを暴き立てたりしていたけれど、その一方で、ブリタニア軍とももちろん敵対して戦っていた。そんな中、どういった経緯でか、皇族であるユフィお異母姉さまの口利きで学園に編入してきて再会したスザクさんが、自分は技術部だと言っていたのに、実は現行唯一の第7世代KMFランスロットのデヴァイサーだと知れ、そのことがきっかけでユフィお異母姉さまの騎士となった。
 そして私の提案で、お祭り好きの高等部生徒会長のミレイさんは、スザクさんのための祝賀会を開いた。ただ、途中でスザクさんの上司だという人がきて、肝心の主役は途中退場となってしまったけれど。
 お兄さまが言うには、スザクさんはユフィお異母姉さまの騎士となってから、それ以前もあったらしいけれど、それ以後、さらに拍車がかかったように、生徒会に顔を出すと、必ずゼロは間違ってる、ルールに則って正しい方法でやらなければ意味はない、警察や軍に入るなりして、内部からの変革をするべきだと毎回のように同じことを繰り返し、いい加減、皆うんざりしてる。なのにそれを言ってるスザクはそれに全く気付いていないKYだ、とのことだ。それにしても、ルールなんて時と場所によって変わるものだし、ブリタニアは専制国家だから皇帝以外の者が内部から変革を、なんて出来るはずなどないのに、それが出来きると本気で信じているのだろうか。名誉ブリタニア人の自分がKMFのデヴァイサーとなり、果ては第3皇女であるユーフェミア殿下の騎士に任命されたから、それが出来ると思い込んでいるのだろう。あの人は単純で、思い込みの激しいところがある人だから。
 やがてやってきたアッシュフォードの学園祭当日。
 その人がやって来たのは、単に自分の騎士が通っている学園だから、だったのだろうけれど、やってこられる方にしてみればいい迷惑だ。といっても、そんなこと、本人は考えもしないのだろうが。
 その人に私を見つけられ、少し会話をしたところで、風の悪戯で、その人の顔を隠してもいた大きなつばの広い帽子が吹き飛ばされ、周囲に、その人が副総督の第3皇女ユーフェミアであることが知れてしまった。
 人々に周囲を囲まれ立ち往生状態になってしまったのを救い出したのは、それまで巨大ピザを作成するという役目を負っていた彼女の騎士。作り掛けのピザ生地を放り出し、KMFガニメデの手でその人を救い出した。そこまではいいのだが、学園に来ていたマスコミにカメラとマイクを向けられ、そこで宣言したのだ。"行政特区日本”とやらの設立と、そこへのゼロの参加の呼び掛けを。
 それからスザクさんは暇をみつけてはクラブハウスにお兄さまを訪ねて来て、特区への参加を促し、お兄さまはそんなこと出来っこないと突っぱねている。失敗することが目に見えている特区に参加することなど出来ないと。けれどスザクさんは、そんなことはやってみなければ分からない。成功させるためにユフィも僕も一生懸命やっていると返すだけ。互いに言うことが平行線で、交わるところがない。それだけでお兄さまを説得しようなんて、甘い考えにも程がある。
 そして特区開設式典の日、見えない目で、それでもTV中継されている様子を伺い見る。
『ゼロ、来てくださったのですね!』
 嬉しそうなユフィお異母姉さまの声。けれど二人はその後、二人だけで話がしたい、とのゼロの言葉に何処かへ入っていって、暫くしてユフィお異母姉さまだけが出て来て、突然、「日本人の皆さん、死んでください」と叫んで、その会場に集まっている日本人たちを殺し始め、集まっている兵士たちにもそれを命じた。様子から、ユフィお異母姉さまの側にスザクさんがいないのが分かる。騎士たる者が肝心の時に傍にいないで、一体何処で何をしているのだ。いきなりこんなことを始めた皇女を止めるのも、騎士としての役目だろうに。なのに日本人を殺し続けるユフィお異母姉さまを止めたのは、ゼロ。お異母姉さまを撃つことによって。その時にもスザクさんはいない。命を懸けて守るべき皇女の側に騎士がいない。そんなこと、決してあってはならないのに。
 特区は始まる前に失敗し、黒の騎士団は開場にいた日本人たちを逃がした後、その勢いをかって、トウキョウに攻め寄せてきている。
 そして学園が黒の騎士団によって占拠された中、どうやって入り込んだのか分からない、何処の誰とも知れぬ者に、私は誘拐された。
 どれくらいの時間が経ったのか、気が付けばベッドと思われる場所に寝かされていたのが分かった。上半身を起こすと、直ぐそばから優しい女性の声がかかった。
「漸くお気がつかれたのですね、ナナリー皇女殿下」
 その声に、ここは何処かと尋ねれば、信じられない答えが返ってきた。「アリエス離宮です」と。
 その日のうちに私は皇籍を取戻し、戻りたかった皇女としての生活に戻った。けれど、傍にいるべきはずのお兄さまはいない。
 スザクさんがユフィお異母姉さまの仇としてゼロを捕縛し、お父さまの前に引き摺り出して、その後、ゼロは処刑、スザクさんはその功によって皇帝直属の騎士、ナイトオブラウンズの一人となった。ナンバーズ上がりの騎士、ユフィお異母姉さまから皇帝にのりかえた尻軽騎士と言われているのは、躰のことから離宮に籠っていることが多い私の耳にも入ってきていた。
 スザクさんは時折、時間が取れたから、といって私のところにやって来てくれて、親しくする者のない私には嬉しいことだった。たとえ今のスザクさんが、周囲から蔑まれ、また、“白き死神”なんていう二つ名で呼ばれる身になっていたとしても。
 そうして気が付けば、一年という月日が流れていた。
 エリア11で大規模なテロがあり、カラレス総督が死に、ゼロが復活したことを知った。そのゼロが、かつてのゼロと同一人物なのか否かは仮面のせいで分からないけれど。
 そして私は、皇帝であるお父さまに頼み込んだ。自分を総督としてエリア11にやってほしいと。シュナイゼルお異母兄さまの協力もあり、お父さまは二つ返事で許可を出してくださった。
 エリア11に赴く途中、ゼロと彼の率いる黒の騎士団の襲撃を受けたりもしたが、無事に到着し、就任会見では、自分の躰の関係から皆の協力を仰ぐと告げ、そしてまた、ユフィお異母姉さまの為そうとして果たし得なかった“行政特区日本”の再建を宣言した。以前、お兄さまは失敗するのは目に見えていると言っていたし、周囲から反発もありはしたが、ユフィお異母姉さまのためにも、なんとしても成功させたくて、ゼロと黒の騎士団に協力も呼び掛けた。なのに総督補佐としてやって来ているスザクさんは、私に無断で黒の騎士団が本拠にしていると思われる船を攻撃した。私が協力を呼び掛けた直後だというのに何を考えているのだろう。これでは私は嘘つきと呼ばれてしまうではないか。幸いといっていいのだろうか、その作戦は失敗し、事は公にはならなかった。
 いつの間にそんな取り決めが出来ていたのか、ゼロの国外追放ということで特区は成功しかけていたが、その場に集まった全ての日本人がゼロとなり、エリア11を離れ、中華の蓬莱島へと渡っていった。そのおかげだろうか、エリア11内でのテロの数は激減し、矯正エリアとなっていたエリア11は衛星エリアとなり、私は帝国宰相のシュナイゼルお異母兄さまからお褒めの言葉をいただいた。
 けれどそんな中で、中華に渡ったゼロは“超合集国連合”とやらを()ち上げ、ブリタニアからの日本奪還のためにエリア11に攻め寄せてきた。キュウシュウ方面とトウキョウ方面の二ヵ所からの攻撃に対して、トウキョウ方面は宰相のシュナイゼルお異母兄さまに全権を委任した。目の見えない私に軍を指揮することは不可能なのだから、当然のことだろう。そう考えて、シュナイゼルお異母兄さまから申し出てくださったのだろうから、それを承諾するのは当然のこと。
 その戦いの中、私はシュナイゼルお異母兄さまの用意した脱出艇で政庁を脱し、シュナイゼルお異母兄さまの旗艦であるアヴァロンに収容された。シュナイゼルお異母兄さまからは、ここでゆっくりと休んでいなさいと言われ、そうすることにした。一瞬、総督たるものがいいのかしら、との思いが(よぎ)りもしたが、宰相たるシュナイゼルお異母兄さまが間違ったことを言うはずはないのだから、その通りにしていればいいのだと、直ぐに頭を切り替えた。
 それから暫くして、驚愕の事実をシュナイゼルお異母兄さまから教えられた。
 ゼロの正体が、他ならぬお兄さまであること、そのお兄さまが皇帝であるお父さまを殺して皇帝位を簒奪したこと、さらには、お兄さまにはギアスという、人の意思を捻じ曲げて自分の言うがままにさせるという人ならざる力があり、お兄さまが皇帝となったのも、その力で人を従えたからだと。その上、皇帝となったお兄さまはお父さまの政策を悉く潰し、ブリタニアという国を造り変えているのだと。
 シュナイゼルお異母兄さまは、お兄さまに対抗するためということもあって、私に自分たちの皇帝となってほしいと告げてきた。本来ならシュナイゼルお異母兄さまこそが皇帝となるべき立場の人だというのに。だから私は頷き、さらにはシュナイゼルお異母兄さまから告げられた、ペンドラゴンへの大量破壊兵器フレイヤの投下も許可した。恐ろしくはあったが、人々の避難は済んでいるとの言葉に、私は、一瞬躊躇いはしたものの、許可したのだ。だって、人ならざる力を手にして、悪魔のように人が変わってしまったとしか思えないお兄さまよりも、私を気に掛けてくださるシュナイゼルお異母兄さまの方が遥かに信じられた。シュナイゼルお異母兄さまが私に嘘をつくはずなどないのだから。そして私の知るお兄さまではなくなってしまったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを止めるためには必要なことだと思ったから。
 そうして行われることとなった、エリア11のフジを中心とした、兄とはもう呼びたくもないルルーシュ率いるブリタニア軍との戦い。その中で、私は「せめて罪だけは背負いたい」とシュナイゼルお異母兄さまに頼み込んでフレイヤのスイッチを受け取った。私が押すスイッチでフレイヤが発射され、その度に大勢の人たちが死んでいく。でもルルーシュにギアスで操られたまま生きていくよりは、きっとずっといいははずだと私は考えた。けれど私たちと、そして私たちに協力してくれている黒の騎士団は、悔しいかな、ルルーシュの前に敗れ去った。ルルーシュは私からフレイヤのスイッチを奪い取り、ダモクレスとフレイヤを手に入れて、世界唯一皇帝を名乗り、私たちは拘束された。
 二ヵ月後、皇帝直轄領となっているトウキョウ租界でパレードが行われた。私たちの処刑のための。けれどその中心を進むルルーシュを阻む者が現れた。ゼロ、だった。どういうことなのだろう。ゼロはルルーシュではなかったのか。わけが分からぬまま、ルルーシュはゼロの剣に刺し貫かれていた。



 そこまでが、私のもう一つの記憶。それが本当にあったことなのか、それとも単なる夢なのか、私には分からない。だって今の私は間違いなくナナリー・エル・ブリタニアで、シュナイゼルお兄さまの実の妹だし、アリエス宮で起こったことは実際には起きてない。第5皇妃のマリアンヌ様は今日もお元気でいらっしゃるし、マリアンヌ様のお子様は、第11皇子のルルーシュお異母兄さまお一人だから。
 ルルーシュお異母兄さまは、もう一つの記憶の中同様に、マリアンヌ様譲りの女性と見間違えそうな美貌と、お父さま譲りといっていいだろう、とてもよく似たロイヤル・パープルの紫電の瞳を持っている。そして真っ白に透けるような肌をしてらして、多くの女性から羨望の眼差しで見られている。その一方で、とても頭脳明晰で、年下の弟妹たちにはとても優しい。年上の兄姉たちからは、一部からは、マリアンヌ様が庶民の出だからということでよく思われていないけれど、でも本当に高位の兄姉たちからは、その能力を買われて、可愛がられているのがよく分かる。シュナイゼルお兄さまなどは、実妹の私よりもルルーシュお異母兄さまを可愛がっているような、愛しく思っているような気がする。それはたぶん、宰相を務めるお兄さまに比べて、あまりにも私の出来が悪いからかな、と思う。
 シュナイゼルお兄さまは優秀な人が好きだ。中には、変人? とか思う人もいたりするけど。
 お兄さまの副官を務めているマルディーニ卿はもちろん優秀だし、最近、宰相補佐に任命されたルルーシュお異母兄さまは言うまでもない。
 宰相であるシュナイゼルお兄さまはとても忙しくいらして、私が起きる時にはもう出掛けてらっしゃることが多いし、昼食は仕方ないと思うけれど、夕食だって、宰相府でルルーシュお異母兄さまと摂ってから帰ってこられることが多い。時には帰ってこられるのは私が既にベッドに入った後で、一日中、一度も顔を合わせない日もあるくらいだ。今では実妹の私とよりも、補佐となったルルーシュお異母兄さまと一緒に過ごされている時間の方が圧倒的に長い。
 とある夜、その日は第1皇女のギネヴィアお異母姉さまの離宮で夜会があって、招待状が届き、私はシュナイゼルお兄さまと一緒に行くつもりでいたのに、公務が残っているからといって、私は一人でギネヴィアお異母姉さまの離宮に赴くことになった。でも宰相の妹だというのに、その私の相手をしてくれる人は誰もいなくて、一人壁の花だった。
 暫くした頃、入口の方が騒がしくなってそちらに目を向けたら、シュナイゼルお兄さまが入って来るところだった。それだけだったらなんとも思わなかったに違いない。けれど、まるでシュナイゼルお兄さまがエスコートするようにルルーシュお異母兄さまを伴ってらした。シュナイゼルお兄さまには、10歳以上も年の離れた実妹の私よりも、ルルーシュお異母兄さまの方が大切なのだ。ルルーシュお異母兄さまとだって10歳近くも年が離れているのに。そして何より、ルルーシュお異母兄さまは女性も羨む程の美貌の持ち主とはいえ立派な男性なのに。
 もう一つの記憶の中で、ルルーシュお異母兄さまは私の本当のお兄さまで、私をとても愛し、慈しんでくれていた。それは当然のことだと思っていた。なのに現実では、私のお兄さまはシュナイゼルお兄さまで、滅多に顔を合わすこともなく、合わせても、出来の悪い私を、まるで蔑むような目で見る。そしてそれは多分、私の気のせいじゃない。
 どうして私はルルーシュお異母兄さまの実妹として生まれなかったんだろう。そうしたら、きっととても愛し、慈しんでもらえただろうに。そう思うと、もう一つの記憶の中の私がとても羨ましく思えてならなくなる。

── The End




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